キリン電波書簡

一方通行の手紙です

三十八通目

 この手紙がどうか誰にも届きませんように。

 

 職場の先輩と駅まで一緒に帰りました。先輩は今日が最後の出勤日。
 いつも前向きで、新しいことに果敢に挑戦する人で、とても頼りにしていました。仕事のことでああでもないこうでもないと話すことが楽しかったし、いつまでも一緒では居られないとは思いつつも自分の方が先に辞めちゃうかも、なんて考えていたくらいで、その人の居ない職場がイメージできませんでした。

 なんか湿っぽいのも嫌だよね なんて話していたし、ちょっと落ち着いたらご飯に行こうなんて話もしていたのでいつも通りに挨拶をして別れました。

 それじゃあまた。ありがとうございました。今度LINEしますね。みたいな。

 

 握手くらいしたかったのですが、やっぱり柄じゃないなと思ってやめました。

 私はさよならがとても苦手です。思い出を振り返ったり感謝の気持を口にしたりなんて気恥ずかしい。
 死んでなきゃまた会えるし、そのうちお互いそれぞれのことで忙しくなって、いつかふとした拍子に「あぁ、あの人元気かな」と思うくらいでいいのです。

 とか言って。やっぱり本当は寂しくて仕方ないから、何か言ったら泣いてしまいそうだったから。いつも通りにしたかっただけ。

 

 お別ればかりが続いていますが、平気な振りをしているうちに平気になるのです。
 きっとね。

 

 それじゃあまた。ありがとうございました。またいつか。