キリン電波書簡

一方通行の手紙です

三十六通目

前略

 涼しい日が何日か続いたあとの暑さは堪えるものがありますね。体調など崩していないでしょうか。

 

 さて、私事ではありますが と書いておきながら、手紙なんて全部私事に決まってるだろうがという声が頭の中で騒いでいます。私事ではありますが、生まれてはじめて人間ドックに行ってきました。三十五歳なので。何か一区切りなんですかね、三十五歳。

 とにかく人間ドックでした。日帰りです。やはりメインイベントは胃カメラです。お陰様で胃カメラを飲むことのない人生を歩んできたので初体験ですよ。胃カメラといえば口から入れるか鼻から入れるかという、岩井俊二監督的な話題がありますよね。会社のお歴々がよく話題にしていました。やはり鼻からが楽〜というのが大多数。とはいえ申込みの際には何も言われなかったので口から入れるつもりでいました。喉の奥に物を突っ込むというのは我々のスキルですし、鼻からゆっくり息すればなんとかなるでしょうと軽く考えていました。

 正直採血も苦手なのですが、今回は胃カメラインパクトが強すぎてサクッと終了。ぐるぐると注文の多い料理店みたいに調理されて、まさかの大トリで胃カメラが来ました。私、水分を朝からほとんど摂ってないんですよこの真夏に。干からびるんじゃないか。

 クリニックに入ってから二時間くらい。急にかわいい男性看護師が現れて、鼻から入れるか口から入れるかが選べると説明が入ります。それぞれのメリット・デメリットをちゃんと説明してくれるのですが、これがもうほぼ誘導なんですよね。『鼻のほうがいいんですけどーでもまぁ人によっては口からのほうがいいっていう人もいてーでもやっぱり楽なのは鼻の方なんですけどどうしますー?』みたいな。いや、詐欺師かよと少し疑ってしまいました。何か裏があるんじゃないの。とはいえ前述の通り鼻のほうが楽だと聞いていたのでそのまま騙される事にします。

 かわいい看護師の次はかわいい先生でした。あんまりこういう事言うのセクハラジジイみたいなので最近は極力避けているのですが、僅かな癒やしとして大変ありがたい。

 一応未体験の方に向けて簡単に説明しておきますと、消泡剤→鼻にスプレー状の麻酔→胃カメラと同じ太さのゴムチューブに麻酔塗って鼻に通るか確認→実際に挿入という流れです。そうね、いきなりの挿入は良くないから慣らさないとね……。とか考えている余裕はありません。インフルエンザの検査とか鼻に物を挿入されるのはそこまで抵抗感なかったのですが、流石にあれは未体験の領域。麻酔が効いているとはいえやはり「何か異物が進んでいく」という感覚は分かります。喉に来ると二度ほどえずきました。食道に入る時は一度飲み込まないといけないのが面白いですね。「ごっくんしてください」と言われたのはちょっといやらしい……と当時はそんな余裕ありませんでした。喉の時は鼻からゆっくり呼吸すれば良いのですが、鼻の時は流石に苦しい。苦し紛れに口呼吸を試してみましたがこちらが意外と功を奏します。感覚はいびきをかいているときと同じでした。喉を鳴らすようにごーふーごーふー息をしているとかなり楽です。まぁこの調子ならなんとか、と思うやいなや胃に急激な違和感。「空気で膨らませますねー」って先に言ってくれ。まぁそうですよね、見やすくするにはそうしないといけませんよね。でも先に言ってくれ。

 どのくらいだったのかは分かりませんが、多分5分から10分くらいで終わりました。胃カメラというよりも麻酔のほうが結構しんどかった。唾液を飲み込む事もできず、口の周りがピリピリするし、麻酔か何かが人工甘味料の味がしてしばらく口の中がおかしかった。

 結果の方はひとまず問題なし。慢性胃炎の症状はあるけどまぁ来年覚えてたらピロリ菌の検査してみてもいいかもしれませんねーみたいなケロッとした説明でした。安心といえば安心だけど、なんか安心のためにここまでしんどい思いをしなきゃいけないのかと怒りにも似た感情が湧いてきます。いやそれは言い過ぎでした。

 とはいえこれでおしまい。麻酔が切れたらどこかでおしゃれランチでも♡ と思っていたのにまぁ麻酔の切れないこと。30分くらいで切れますからねーと説明があったのですが全然切れない。唾液は飲めるようになりましたが、変なところに入ってむせるのも怖い。

 そしてこれ社会の欠陥なんですけど、飲食を伴わない休憩スペースってほぼないんですよ。駅ビルの中にあるちょっとしたソファとかは落ち着かないし、せいぜいネットカフェかカラオケでしょうか。コワーキングスペースも気軽に入れるといいんですけどね。もっとちゃんと探したらあったんでしょうけど、

とりあえずもう疲れ果てていたのでちらっと買い物をし、とっとと地元駅へ帰りました。その頃にはだいぶ喉の違和感もなくなっていたので、おっかなびっくりアイスカフェラテをすすりました。(※胃腸への影響と水分補給という観点からは最悪の選択肢の一つでしょう)

 久々の水分。いたく感動する……はずでしたが、いつもどおりのカフェラテでした。

 こうして後々振り返ってみると「棒状のものがずるずる入っていくのってなんかエッチ」とか思えますが、当時はそんな余裕一切ありませんでした。この歳でもまだまだ初めてな事ばかりですね。

 次回以降も鼻でやろうと思いますが、バリウムだけは一生やるつもりはありません。

 

 みなさんの異物挿入体験についてもぜひ聞かせてくださいね。いや、やっぱり嫌だ。

 

 それではまた。

 

草々不一