キリン電波書簡

一方通行の手紙です

二十通目

前略

 一ヶ月ぶりのお手紙となります。その後いかがお過ごしでしたか。今週から梅雨らしい空模様になるようで、湿度にやられないよう気をつけていきたいですね。

 さて、最近のことですが筋トレを始めました。これ、うかつに言うと今まで培ってきたセルフブランディングをぶち壊してしまいかねないので慎重に取り扱っていきたい情報です。センシティブです。

 もちろんそんなに大したことをしているわけではなく、入浴前に十分程腹筋を鍛える運動をしているだけです。私は前から何秒を何セットとかカウントするのが非常に苦手でそういったトレーニングからは目をそむけてきました。しかし今の時代は便利ですね。YouTubeには時間をカウントしながら一緒にやってくれる動画がごろごろと転がっています。正しいフォームも見ることができるので(自分が実際できているかはさておき)なかなか参考になります。先方は再生数に応じてリターンもあるでしょうからお互いのためになるわけですね。

 これがなかなかじんわりと汗もかきますし、達成感もあります。私は腰痛持ちなので不安でしたが今のところはさほど影響はありません。

 十種の運動を二回繰り返すのですが、開始当初は二回目がぼろぼろだったにも関わらず、二〜三週間ほどでしっかりとこなせるようになってきます。なるほどこれはハマる人の気持ちも分かります。

 私は以前、付き合っている人がジムに通い始めると唐突に筋肉理論を語り始めたことを大変恐ろしく思ったことがあります。あれは宗教の教えを説く狂信者の目でした。ある日突然運動のうの字もしたこともない人の口から上腕二頭筋とかいう単語が溢れるんですよ。別人と話をしているようでした。
 ああこの人はこのまま変わりゆき、そして私を置いていくに違いない と思っていましたが、その後諸般の都合でジムを解約してからはそれまでの彼に戻りました。筋肉は人を狂わせる。

 

 そもそもなぜ私が筋トレなど始めたかというと、今猛烈に嫌っている親族が醜い腹をしていたからです。私の友人にもお腹が出ている人は居ますし、それに対しては特になんとも思ってはいません。けれど嫌いな人の醜い腹を見ているとああ自分は絶対こうなりたくない と強く思ってしまいました。

 それまでは、体重増加の危機は感じながらも「そうは言ってもなんとかなるでしょ」と思っていました。自分は変わらない。自分だけはなんとかなる。本気で思っていたわけではありませんが、そう思いたいという気持ちはありました。けれどもう私も三十四になりました。そろそろそむけていた目を前に向ける頃なのです。

 さあ清算を始めましょう。運動が嫌いなブランディングなどはどうでもいいのです。だらしない私が変わってしまって愛想をつかれても構いません。私は私が愛せる私を作っていく義務があるのです。目に見える効果はまだありませんが、蝸牛の歩みでも進んでいければいいですね。

 ジムも行きたいとは思うんですがそれはまた追々ということで。

 

 それではまた、腹筋が割れた頃に…………というともう当分筆を執ることができなくなりそうなので、少しでも筋肉がついた頃にでも。

 健康にはどうぞお気をつけください。

 

 草々